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学び支える「自主夜間中学」 

公立校空白県で存在感  

産経新聞 1/26() 19:20配信 

 

 家庭の事情で中学校に通えなかった高齢者や不登校の若者、日本で暮らす外国籍の人らの学びの場として、ボランティア団体などが運営する「自主夜間中学」。公立の夜間中学は、平成28年に教育機会確保法が成立したのを受けて文部科学省が各都道府県に少なくとも1校の設置を促しているが、現時点では8都府県に31校しかなく、民間が学びを支えている格好だ。クラウドファンディングを活用したり、公立夜間中学の設立に尽力したりするなど、存在感を放っている。(吉田智香)

 

自主夜間中学の授業。ボランティアと1対1で学ぶ=1月12日、岡山市北区(吉田智香)
 JR岡山駅近くにある岡山国際交流センター(岡山市北区)。月2回、土曜日の夜になると、年齢や性別、国籍もさまざまな生徒が集まってくる。「岡山に夜間中学校をつくる会」が立ち上げた自主夜間中学だ。公立の夜間中学とは違って時間割などもなく、ボランティアと1対1で机に向かうと、それぞれのペースで国語や数学、英語を学ぶ。

 代表の城之内庸仁(しろのうち・のぶひと)さん(42)は市立中で英語を教える現役教諭。中学校にほぼ通わないまま卒業した生徒から「働こうと思っても、字が読めないし、計算もできない」と聞いたのを機に、学び直しの場の必要性を実感。東日本大震災後にボランティアで訪れた福島県で自主夜間中学の活動に触れて刺激を受け、29年4月、地元の岡山で開設にこぎつけた。

 当初は生徒が数人だったが、存在が知られるにつれ生徒数は増え、現在は約70人に。教える側も現役を含む教諭経験者や学生ら70人を超えるまでになった。

 生徒が用意するのはノートと筆記用具だけ。受講料は受け取っていない。運営費の確保が課題で、ボランティアの会費でやりくりしているが、限界がある。そこで、同会では30年夏、運営費に充てるため、インターネットで費用を募る「クラウドファンディング」を活用。目標の50万円を大きく上回る140万円余りを集めた。

 城之内さんは「今の世の中にも読み書きに困っている人がいる。こうした人たちも学ぶことができる機会や場所を提供しないといけない」と話す。

 自主夜間中学の活動が、公立校の設置につながった例もある。

 埼玉県川口市で30年以上自主夜間中学を運営する「埼玉に夜間中学を作る会」。埼玉県内には公立の夜間中学がないため都内の夜間中学に通学する生徒が一定数いたといい、同会では発足した昭和60年以降、自治体への働きかけなどを強めてきた。その活動が実り、今春に市内に公立校ができることになった。

 同会が運営する「川口自主夜間中学」の生徒約70人には外国人も多く、同会は公立夜間中学について、英語や中国語、スペイン語などの資料も作成した。

 同会代表の野川義秋さん(70)は「公立の夜間中学とも連携し、学びを保障する場としての役割を担っていきたい」と話している。

 夜間中学 公立の夜間中学は、戦争や貧困などで中学校に通えなかった人に義務教育の機会を確保しようと設置された。文部科学省によると、全国8都府県に31校あり、生徒数は計1687人(平成29年7月現在)。近年は、日本で働く親とともに来日した10~20代の若者が入学するケースも増えており、外国籍の生徒が約8割を占める。今年4月には、埼玉県川口市と千葉県松戸市にそれぞれ1校が開校する。