日経新聞に夜間中学校の取り組みが掲載

「そうそう、正解です。よくできたね」。ボランティアの講師が褒めるのは、老若男女様々な生徒。不登校の中学生や中学校の「形式卒業者」、日本で暮らす外国籍の人、定年後に学び直そうとする人もいる。各自がそれぞれの学びに取り組む岡山の「自主夜間中学」は活気にあふれている。  JR岡山駅西口からほど近い岡山国際交流センターの会議室で月2回、第2・第4土曜日の夜に「開校」する自主夜間中学。主催する「岡山に夜間中学校をつくる会」の代表、城之内庸仁(41)が2017年4月に一人で立ち上げたものだ。2月24日の午後6時には7人の生徒が学びに来た。  「最初は厳しいスタートでした」。城之内は振り返る。年齢・国籍を問わず、「一緒に勉強しませんか。一人ひとりの状況に合わせた個別学習をします。文字の読み書きや小学校の学習内容も勉強できます」とチラシで呼びかけたが、当初やってくる人はいなかった。  

流れが変わったのは昨年11月。前文部科学省事務次官の前川喜平が、岡山市内で開催された「人権と文化のつどい」で夜間中学などについて講演してからだ。その場で配布したチラシとの相乗効果で、学びたい人とボランティアで活動に参加したい人からの問い合わせが相次ぐようになった。  

公立中学校教諭の城之内が夜間中学に関わるきっかけとなったのは、不登校の生徒との関わりだった。ほとんど中学に通うことなく卒業してしまい、気にかかっていた生徒が、しばらくして訪ねてきた。「働こうとこうと思っても、自分は字が読めんし計算もできん」。生徒の話が胸に刺さった。  

何とかできないかと思い続けるうち、東日本大震災の被災地支援ボランティアで通った福島で、自主夜間中学校に尽力する大谷一代に出会う。大谷らの「福島駅前自主夜間中学」は、震災前の10年に活動を始め、今も活動を続けている。 福島の自主夜間中学に参加し触発された城之内は、岡山での設立を決意した。全国では8都府県の31の中学校に夜間中学が設置されているだけ。文科省は未設置の道県に、少なくとも1校の設置を求めている。中国地方では広島市に公立夜間中学2校があるが、私塾の自主夜間中学はない。  

「公私を問わず奈良や大阪、尼崎の夜間中学にお邪魔して研究した」城之内は、できる限りの準備をして立ち上がった。授業料は無料。筆記用具とノートだけ持ってくればいい。学びたい人は全て受け入れる。「だって義務教育は無料でしょ。学習権はすなわち生存権なんですよ」。  

2分の1が半分ということを知らず60数年生きてきた人が、学びたくて来るのだ。ボランティアには、「しっかり褒めてください」とお願いする。登録生徒は12人になった。現在は教室として使う会議室の室料から全て城之内の持ち出し。「形式卒業者に加え、これからは外国籍の人のニーズも広がってくると感じている」だけに、個人負担は限界に近い。ボランティアや運営資金の支援も求めている。

=敬称略

(岡山支局長 上野正芳)

 

しろのうち・のぶひと 1976年広島県府中市生まれ。大学院で教育方法学を修める。岡山市内の中学校では英語科教諭。小学校や特別支援学校教員免許状にも挑む。

 

夜間中学で学び直しを 「岡山に夜間中学校をつくる会」代表 城之内庸仁氏 福島ボランティアで触発、昨春開校 「学習権は生存権」月2回無料で授業

2018/3/10付日本経済新聞 地域経済